感染クラスター対応をゲームで疑似体験!「クラスター8」体験レポート

「施設で新型感染症のクラスターが発生。しかも施設長は感染して不在——さあ、どうする?」。そんな緊迫の状況をカードゲームで疑似体験できるワークショップが、第8回日本在宅医療連合学会大会(2026年7月4日・5日、札幌)で開催されました。その名も「感染クラスター乗り切り体験ゲーム『クラスター8』」。実際にプレイヤーとして参加したNsPace編集部が、ゲームの様子と学びをレポートします。
目次
「クラスター8」とは?現場の声から生まれた体験ゲーム
クラスター8は、介護施設での感染クラスター発生時の対応を、チームで疑似体験するボードゲーム型の研修ツールです。開発の中心となったのは、コロナ禍で数多くの施設の感染対応を支援してきた医療・介護の実践者集団「一般社団法人KISA2隊(キサツ隊)」。「issue+design」との共同開発により、現場で見てきた工夫や失敗の教訓を集めて作られたといいます。
印象的だったのは、冒頭で語られた開発の動機です。クラスターの被害は感染者数だけでは語れません。感染対応を優先するあまり利用者さんのADL(日常生活動作)が低下してしまう、スタッフが疲弊して離職につながる、チームの人間関係が壊れてしまう——。そうした「二次被害」も含めて危機をどう乗り切るかを、安全な場で体験してもらいたい。ゲームにはそんな願いが込められています。
ゲームの舞台は「施設長不在の小規模施設」
ゲームの舞台は、利用者さん10名を職員6名で支える小規模な介護施設です。ある日、施設長が新型ウイルス感染症に感染して自宅隔離となり、残された職員だけでクラスター対応に立ち向かう——という設定で始まります。
参加者は4人1組のチームとなり、それぞれ「医療職員」「介護職員」「ケアマネジャー」「感染対策委員」の役割を担当。感染発生からの8日間をターン制で進めていきます。
ルールの骨格はシンプルです。
- チーム共通の目標は「施設全体の感染者を一定数以下に抑える」こと
- 各自にはそれぞれ役割に応じた個人目標がある(職員の感染を防ぐ、利用者さんのADLを守る、職員の元気度を保つ…など)
- 毎ターン、20種類の「アクションカード」から実行する行動を最大3つまで選ぶ
- アクションには実行に必要な職員数があり、職員が感染すると打てる手がどんどん減っていく
そして意地悪なことに、20種類のアクションの中には「実はあまり効果がないもの」も紛れ込んでいます。限られた人手で何を優先するか。チームの合意形成そのものが、このゲームの本体です。

体験して分かった「合意形成」の難しさ
編集部も1つのチームに入って参加しました。実際にやってみると、これが想像以上に悩ましいのです。
感染拡大を抑えたい医療職視点では、消毒やゾーニングを優先したい。一方で、利用者さんの生活を守る介護職視点では、隔離や制限ばかりだと個人目標のADLが守れない。職員の元気度を担当するメンバーからは「その前に職員が倒れます」と“待った”がかかる。それぞれの正義がぶつかる中で、3枚しか選べないカードをどれにするか——制限時間は刻一刻と減っていきます。
ゲームの結果は、チームの選択によって「グッドエンド」から「バッドエンド」まで複数のエンディングに分岐します。感染は抑えたのに利用者さんのADLが大きく低下し、職員の離職が始まってしまう、という苦いエンディングもあり、「感染者数さえ抑えればよいわけではない」という開発者のメッセージがここにも表れていました。
答え合わせで学ぶ、初動対応のポイント
ゲーム後の解説パートでは、推奨される対応が具体的に示されました。詳細は割愛しますが、編集部が特に持ち帰りたいと感じたポイントを3つご紹介します。
(1)最初にやるべきは「指揮系統の明確化」
責任者が不在でも対応が止まらないよう、誰が判断し、誰に確認するのかをまず決める。指示待ちによる初動の遅れが、その後の展開を大きく左右します。
(2)ご家族への連絡は「有事の前」から
有事の連絡だけでは、ご家族の不安は募るばかり。平時から「何もないとき」にも連絡を取り、信頼関係を築いておくことで、緊急時の連絡も前向きに受け止めてもらえる、という指摘にはハッとさせられました。
(3)「よかれと思った対策」にも落とし穴がある
一見有効に思える対策でも、使い方や場面によっては逆効果になり得るものがあります。たとえば仕切りの設置が換気を妨げてしまうケースのように、「その対策は何のためか」を理解して選ぶことの大切さが強調されていました。

訪問看護ステーションでも「避難訓練」を
主催者が繰り返し語っていたのは、「これはあくまで疑似体験、いわば避難訓練です」ということ。本番はもっと過酷で、時間も情報も足りない中での判断を迫られます。だからこそ、平時に安全な場で「チームで決める」経験をしておくことに価値があるのだと感じました。
また、このゲームは医療職と介護職の合意形成ツールとしての側面も持っています。医療の正義と生活の正義、どちらも大切だからこそぶつかる。その調整を疑似体験できる研修ツールは、訪問看護ステーションと連携先の施設・事業所が合同で取り組む研修としても効果的だと感じました。
BCP(業務継続計画)は作って終わりになりがちです。自分たちの計画が本当に機能するのか、ゲームという形で点検してみる。そんな選択肢があることを、多くの事業所の方に知っていただきたいと感じた90分でした。
【参考文献】
- 第8回日本在宅医療連合学会大会運営事務局:「ワークショップ・交流集会・ハンズオンセミナー(事前予約)」.第8回日本在宅医療連合学会大会.https://www.aeplan.jp/jahcm2026/workshop/ 2026/8/6閲覧
- 一般社団法人KISA2隊:「感染クラスター8|感染対策研修をゲームで楽しく実施する!」.一般社団法人KISA2隊ウェブサイト.https://kisa2tai.or.jp/lp/cluster8/ 2026/8/6閲覧
- 厚生労働省老健局:「介護現場における感染対策の手引き 第3版」.厚生労働省ウェブサイト.令和5年9月.https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001149870.pdf 2026/8/6閲覧
- 厚生労働省:「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」.厚生労働省ウェブサイト.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/douga_00002.html 2026/8/6閲覧